『御調の家』のコト|國本建築堂|尾道の住宅設計デザイン工務店

『御調の家』のコト

尾道 移住

ー便利さに頼りすぎず、できることは自分たちで。ー

“生活”を実現する家づくり

(尾道市御調町・Nさんご一家)

Nさんご一家

夫のYさん、妻のRさん、7歳の息子さん、3歳の娘さんの4人家族。息子さんが小学校へあがるタイミングで、埼玉県の都心部から尾道市御調(みつぎ)町へ移住しました。地域とのつながりに支えられながら1年かけて探し出した理想の空き家はリノベーションを終え、いよいよ新しい生活の始まりです。

これまで当たり前だった暮らし方を見直す瞬間があります。転勤や仕事に左右される受け身の暮らしではなく、自分たちの“生活”を営みたい。Nさんご一家はそんな思いで、埼玉県都市部から尾道市御調町に住まいを移しました。

今回のインタビューでは、國本建築堂との出会い、理想の家づくりの過程について伺いました。
お話のなかから見えてきた暮らしへの思い、価値観など、國本建築堂との家づくりで実現しようとした暮らしへのまなざしをお届けします。

移住先での暮らしと、定住への思い

―関東から移住されたということで、移住先での生活は以前と比べていかがですか?

Yさん:御調での生活に不便さはまったくありません。町の中心地にはスーパー、ホームセンター、ドラッグストア、総合病院、図書館などが揃っていて、福山市や広島市などの周辺都市にも出やすいですし。

Rさん:実は、休日の過ごし方も移住前とあまり変わっていないんです。変わったことがあるとしたら、時間にも心にもゆとりがもてるようになったことかもしれません。たとえば、子どもが大きな声を出してはしゃいでいても、ここでなら「ま、いっか」って思えるような、そんな気持ちの余裕が生まれました。

―移住して、どのタイミングで定住を考え始めたのでしょうか。

Yさん:僕たちはもともと、定住するつもりで移住しました。最初の1年アパートで暮らしてみて、子どもも学校が楽しそうだし、買い物には困らないし、親戚も近くなったし、電波も届くし、地域の人たちも温かい。御調での生活がすごく楽しくて。

Rさん:移住前に何度も御調を訪れたのも良かったんだと思います。イベントに参加させてもらったり子どもの小学校を見学したりして、移住後の暮らしのイメージが描けた。「ここなら住めそう!」という直感がありました。

Yさん:妻の直感でこれまで間違っていたことがないもので(笑)

國本建築堂代表・國本広行(以下、國本):わかります、わかります!うちも妻の直感が頼りです。

「一緒に家づくりが楽しめそう」。國本建築堂から感じた家づくりへの姿勢

―國本建築堂との出会いについて教えてください。

Yさん:Instagramのハッシュタグ「#空き家リノベーション」や「#古民家再生」で工務店を探していて、妻がたまたま見つけてくれました。

一番の決め手は、家づくりに対する信頼感です。住宅見学会に参加して、実際の家を見たり、住まわれている方とお話させてもらったりして、國本建築堂さんがいかに家づくりを大切に思われているのか、その心を感じました。あと、予算に近いかたちでこんなに素敵なリノベが実現できるのか!と感動したことも理由のひとつでした。やっぱり現実的な話、どれだけ家が良くてもお金の問題はあるので……。

Rさん:それにせっかく尾道での暮らしを始めるのだから、「地域に根ざした工務店さんにお願いしたいね」と話していて。量産してどんどん売るのではなく、國本建築堂さんは1軒1軒に寄り添いながら向き合ってくださると感じました。私たちも家づくりを急いでいるわけではなかったので、ていねいなお仕事はうれしかったです。

Yさん:本当にそうだよね。國本さんと話すと「この人、本当に建築が好きなんだな」ってわかるんです。國本建築堂さんとなら家づくりを楽しめるんじゃないかという予感がありました。

國本:そんなふうに言っていただけるなんてうれしいですね。建築堂では今回、一人親方だった大工を従業員として雇用することにしました。これにより、家づくりに対してより連携がとれるようになっていくはずです。

Yさん:工事中に何度か伺いましたが、いつも現場をきれいにされていたのが印象に残っています。この家を大事に思ってくれているんだなって。

今も、そして20年後も。
それぞれのライフステージを包み込んでくれる家族の空間

敷地内には母屋をはじめ、離れ、蔵、畑がありました。今回のリノベーションでは、状態が良かった離れを住居のために残し、南側で光を遮っていた母屋を取り壊すことに。梁はそのままに、床や階段には無垢材が使われています。母屋があった場所は、遊びざかりの子どもたちが走り回れる広い広い芝生の庭に生まれ変わりました。

國本:「家のどこにいても家族の顔が見える空間」をご提案しました。「家族団らんの時間を大切にしたい」という思いを伺っていたので、リビングの床を一段下げた畳の小下がりを造作しました。家族が集まる小下がりからは、薪ストーブの火のゆらぎをのんびりと眺めることができる。子どもが庭で走り回る姿を見守ることができる。子どもたちは、庭からそのまま土間へ「ただいま」と帰ってくる。そんな場面を思い描きました。

國本建築堂・加藤一実(以下、加藤):また、今回最初からTVを置かない空間をご提案しました。実際におうちにお邪魔してお話を伺ってみると、TVがなくてもそこにある自然をごく当たり前に楽しむことのできるご家族だとわかったんです。

國本:自然豊かな場所に位置しているので、四季折々の自然の移ろい、時折吹くやわらかい風、差し込む光などの良さを楽しんでもらえるよう、南側にのびのびとした大きな開口部をつけました。Nさん宅は農業道路から2段ほど上がった場所にあるので、ここなら外からの視線は気にならないはずです。

―小下がり、いいですね。

國本:角をやわらかいカーブにしたので、クッションを置けばソファのように寄りかかることができます。家族を包み込んでくれる小下がりの空間で薪ストーブを眺めながら、心のゆとりや安らぎを感じてもらえたら。

加藤:庭が広くとれそうだったので、内と外の境界をフラットに見せたいという思いもありました。Nさんのお宅ではきっとこれから、子どもの友達や近所の方など、周囲の方との接点が育まれていくと感じたので、家のなかと家の外が分断されることなく行き来できる、つながりのある空間を目指しました。

―國本建築堂からの提案を受けていかがでしたか?

Yさん:率直に「すごいな」と思って顔がニヤついてしまいました。ニヤニヤを抑えようとして、「ふーん」というポーカーフェイスで誤魔化していました(笑)普通なら図面に起こしてもらったあとであれこれ注文させていただくのかもしれませんが、「これでお願いします!」とほぼ即決でしたね。

加藤:そうだったんですか!最初はあまり反応をもらえなかったので、國本と2人で「本当にこれで良かったのだろうか…」と話しながら帰ったんですよ(笑)

Rさん:いえ、國本さんたちが帰られたあともずっと図面を眺めていました。ニヤけたよね。それに意外性もありました!てっきり縁側はついてくるのかなと思っていたので。

子どもたちには「走り回りたいなら外でどうぞ」という環境にしたくて、家自体にはそれほど広さを求めていなかったので、思い切って母屋を取り壊すご提案にもすんなり納得ができました。将来子どもたちが巣立って夫婦2人だけになる日がきたとき、母屋と離れを管理できる自信もありませんでしたし……。子どものために、家族のために、長く住める家を。國本建築堂さんは、私たちのそんな願いを汲み取ってくださいました。

できることは自分たちでやってみたい。
「明日は何をしよう」が叶う新しい家

―それぞれがこだわった、家のなかで好きな場所を教えてください

Yさん:「DIYスペースがほしい」は、唯一こちらからお願いさせていただきました。釣り、熱帯魚の飼育、ドライブ、ラジコン、プラモデルetcと僕、ちょっと多趣味でして……。自分の作業スペースができたら、ずっとそこにいるんだろうな。

Rさん:私は、小下がりで本を読む子どもたちを見るのが楽しみです。階段下の間仕切り壁を全面本棚にしてもらいました。階段に腰掛けたり、小下がりでくつろいだり、家のなかのいろいろな場所で本を手に取れる空間を心待ちにしています。

國本:僕としては、薪ストーブの提案を受け入れてくださったことにびっくりしました。

Rさん:都会の生活って、お金を出せばなんでも解決できてしまいます。でも、自分たちの力でできることをなんとかしながら暮らしていきたい。これからは人間らしくちゃんと“生活”がしてみたいよね、と夫とはよく話していました。そのひとつが薪ストーブだったので、うれしかったですね。

Yさん:今回のリノベーションでは物置になる予定の蔵には手を入れず、ゆくゆくは自分たちで直していくつもりです。余白が残っているので、これからの生活にワクワクしています。夏に向けて畑で野菜を育てることも楽しみですし、子どもからは流し素麺のリクエストも。いやぁ、何から始めようかな。

Rさん:少しずつ、自分たちのペースでいろんなことができたらいいな。個人的には、子どもが生まれてから毎年取り組んでいる味噌づくりも、新しい家でできるのが楽しみ。

加藤:味噌づくりワークショップを開催してくださったら、私が参加したいくらいです。ぜひ「発酵部」を作ってください!

―今回Nさん宅を手掛けられて、いかがでしたか。

國本:設計図通りに造り上げることはもちろんできますが、設計図には描けないNさんご一家のこれからが楽しみで仕方ありません。実際にご一家が住まうことで、家はその住人たちの暮らしに馴染み、育まれていくんです。Nさんたちの暮らし、そして家の変化。ぜひ、新しい住まいでの生活を彩ってほしいです。

「関東で暮らしていた頃は、『便利』に囲まれすぎていたなと気付きました。歩いて5分の場所にスーパーが必要だろうか。家の近くにショッピングモールがないといけないのだろうか。そんな便利さがなくても、暮らしは成り立つって実感しています」とNさん。

その言葉から筆者は、國本建築堂が以前手掛けた、最小限の広さで豊かな暮らしを表現した「KOTA 小宅〜5坪の家」との親和性を感じました。

私たちは、不便=悪いことという固定観念にとらわれがちなのかもしれません。家族との時間、自然とのふれあい、地域との関わり。ご家族がこれから時間をかけて紡いでいく暮らしを、國本建築堂は家づくりで寄り添います。移住者、空き家の活用をお考えの方は、ぜひ暮らしの見学会にお越しください。

text 安藤 未来 photography 加藤 一実

5/17.18

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